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西村陽一郎さんの創る写真は、いわばぼくの写すストリート・スナップとは対極に在る世界である。西村さんの作品とは、彼の、針先のように尖った繊細な神経と、湧き立ち泡立ち変容する無数の細胞との、蠢きに似た交感による結晶であり、人間の意識下の、さらに下流にひそむ臨界から呼び醒まされて露れるイメージではないかと思う。
つまり、銀塩の蠱惑、漆黒の魅惑、もはやエロティシズムの行き着く涯ての世界である。ぼくは西村陽一郎さんのプリントの、名状しがたさに立ち合うとき、いつも深いときめきを覚えるのだ。
森山大道
2010年「月の花」展に寄せて
西村陽一郎さんの、きわめてセンシティブな視線と心性を漉して露れるイメージ世界では、水も昆虫も植物も女体も、全てが超現実性を帯びた発光体へとメタモルフォーズされてしまう。そして、見る者を、燐光が交叉する妖しい場所、エロスの領域へと誘っていく。
ぼくの識るかぎり、西村さんという一人の写真家の在り様は、暗箱(カメラ)に閉じ籠って光とたわむれる“密室の遊戯者”であり、飽かずルナティックな光体を追い求めつづける”光の狩人”なのである。
森山大道
2014年「ホタルとホタルイカ」展に寄せて
西村陽一郎さんが創るイメージ世界は、いつもどこか夢性を帯びている。さりげなくクールでエロティックでミステリアスな夢。
深夜、灯りを消して目を閉じると、瞼の裏に映る燐光に似たさまざまな光景が、網膜にそってゆらめき流れ過ぎてゆく。
その、名状しがたい光彩の変容を感応するとき、いつもぼくは西村さんの映像を経験する。
妖しく官能的で蠱惑に充ちたミクロコスモスへの旅を。
作品集「青い花」は、西村さんの感性の昇華である。
森山大道
作品集『青い花』に寄せて(2016年)
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