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「薄い羽のシリーズは、数枚の明暗の強さの異なるソラリゼーションプリントと組みにして制作しました。暗いものから明るく、そしてまた暗くなるといったシークエンスです。
これは光によって変化する羽の美しさもさることながら、飛翔したいと言った願望や憧れがこの形態を獲得するのに必要であったと思われる時の流れの悠久さや、束の間空をつかんだであろう原始の羽たちの、風に煽られ折られ暗い大地や海に沈み込んでゆく無念さ、それでも何度も繰り返し絶望を越えて羽を広げようとする命のこころみ等、制作中にこれらの羽を前にして感じた事を時間的な要素を入れて、少しでも表現したかったからです。
ちなみにこの羽のうちの1つは、薄羽蜉蝣という虫(幼虫はアリジゴクとして有名)のものなのですが、暗い私の部屋の片隅、敷居と畳の隙間に羽だけが落ちていたのを冬になってから見つけ、とっておいたものです。
死んでいなくなった羽の主が何を体験し何を求め何を得たのか、この飛翔の残骸からは分かりませんが、たしかに私の手のひらの上にあるこのものは、写真の制作を通して私自身の中にある「死」だけでなく、「命」というものを、夢想させてくれたのです。
1996年「薄い羽」展
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